まず、個別指導とは何か?という定義ですが、個別指導とは、「個々の学習状況に応じてそれぞれに異なった課題を与える指導」だと私たちは定義します。
その意味で集団授業は「すべての生徒に同じ課題を与える指導」だといえます。
以上を踏まえて、生徒派の個別指導理論について解説をします。
皆様は個別指導と集団授業の長所と短所をご存じでしょうか?
その前に理想的な指導者の役割について考えてみましょう。
心理学者であるヴィゴツキーが提唱した「発達の最近接領域」という理論があります。
本来は学力のみならず、あらゆる発達に関する議論で用いられるのですが、ここでは学力の場合に特化してみます。
図を描いて説明しましょう。
図のA点は現在の子どもの学力です。
そしてP点を横切るラインは、A点にいる子どもが自分だけの力で到達できる最高の学力だとします。
児童心理学者ピアジェによると、指導者が子どもに課題を課す場合、ちょうどP点のラインの課題を与えるのが良いというのです。
例えば個別指導では、個々の学力に合わせるあまり、さらに易しい課題を与えてしまいがちです。
図でP点よりも下のレベルの課題を提供してしまうのです。
ここで本題です。与えるべき課題のレベルはどこが最も適切なのでしょうか?
ヴィゴツキーは、P点のさらに上に、道具や他者の助けをかりて到達できる領域があると主張しました。
これを「発達の最近接領域」といいます。
ちょうど影の領域です。
そして、指導者は、この領域、つまりP点のラインより少し上の課題(S点)を与えることで、子どもの学力を最も伸ばすことができると考えました。
この領域は子ども一人一人で違います。
最新の研究によると、意外なことにピアジェの理論よりも、ヴィゴツキーの理論の方が、子どもの学力の成長に効果的だという結果が出ています。
個別指導は、一人一人に合わせられるということが長所の一つです。
しかし、多くの個別指導の現場では、子どもの学力に合わせるあまり、P点より下の課題を与えてしまいがちです。
「できないからハードルを下げて易しく指導」というのは正しい指導のように思われます。
しかし、本当に与えるべき課題レベルは、もっと上にあるS点なのです!
何故なら難しい課題だったとしても、それが最近接領域にあるかぎり、私たち指導者と教材による助けがあれば到達できるのですから!
一方集団授業では、「発達の最近接領域」のさらに上の課題である場合も多く、そうなると人の助けがあってもどうしようもありません。
また、課題はすべての生徒に同じレベルのものが与えられるため、その課題がちょうど最近接領域にある生徒は少ないでしょう。
概して理想的な指導者の役割とは、生徒の「発達の最近接領域」を見極め、適した課題を与えることである、と考えられます。
生徒派の「学習デザイン」は、生徒一人一人の学習状況を細かく分析し、「発達の最近接領域」に見合った課題を設定します。
先ほども言いましたが、この領域に到達するためには、先生による助けと、“道具”による助けが有効です。
ここでいう“道具”とは教材や学習法のことです。
生徒派では一人一人に合った適切な教材を選択し、その使い方、ノート法まで指導しています。